薬物療法

糖尿病の薬物療法

 糖尿病治療薬はさまざまなものがあり、西暦2000年前後からその種類は飛躍的に増加しました。糖尿病の病状に応じて、投与する薬の組み合わせは千差万別です。以下に糖尿病薬を解説しますので、皆様の参考になれば幸いです。

■DPP4阻害薬
 消化管ホルモンGLP-1は、消化管から分泌されるホルモンの一種であり、血糖低下作用があることがわかっています。食事を食べるとGLP-1が分泌され、膵臓に働きかけてインスリン分泌をうながしたり、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンの分泌を抑制する作用があります。GLP-1はDPP4という分解酵素で、短時間で分解されてしまうため、作用時間が非常に短いことが難点です。
 DPP4阻害薬は、GLP-1の分解をおさえ、GLP-1の効果を長持ちさせることで、血糖低下作用を発揮します。低血糖のリスクが低く、日本においては糖尿病患者が最初に服用する薬として最も選ばれているのが、DPP4阻害薬です。
<ジャヌビア・エクア・トラゼンタ・テネリア・スイニー>

■GLP-1受容体作動薬(注射剤)
 消化管ホルモンGLP-1は、細胞の表面にあるGLP-1受容体に結合することで、作用を発揮します。GLP-1受容体作動薬は、GLP-1と構造が類似しており、GLP-1受容体に結合する薬剤です。血糖低下作用は、DPP4阻害薬よりも強く、さらに脳に働きかけて食欲を抑制したり、消化管の運動を鈍くすることで、体重減少効果が期待されます。
注射剤の種類により、毎日もしくは週1回注射するものがあります。主な副作用は、嘔気や便秘・下痢などの消化器症状です。
<オゼンピック・トルリシティ・ビクトーザ・ゾルトファイ(インスリン配合剤)>

■GLP1受容体作動薬(経口剤)
 GLP1受容体作動薬は注射薬として発売されましたが、のちに飲み薬が開発されました。注射剤に引けを取らない作用を発揮しますが、一般的な飲み薬と比べると飲み方がやや特殊です。医師、薬剤師から飲み方の説明を受けてから服用してください。
主な副作用は、注射剤と同じく、嘔気や便秘・下痢などの消化器症状です。
<リベルサス>

■ビグアナイド薬
 インスリン抵抗性を改善する薬剤です。古くからある薬で安価であり、比較的安全で、世界で最も処方されている薬です。ビグアナイド薬を単独で服用した場合には、低血糖の懸念がほとんどありません。
主な副作用は、下痢などの消化器症状です。
メトホルミン

■SGLT2阻害薬
腎臓に働きかけて、尿へ糖の排出を促すことで血糖値を下げる薬剤です。また、糖を体外に排出することは、すなわちカロリーを体から追い出すことになりますので、体重低下作用が期待されます。研究では、腎臓や心臓に対して臓器保護的な効果があると報告されています。
主な副作用は、多尿、頻尿、尿路や陰部の感染症です。
<フォシーガ・カナグル・ジャディアンス・スーグラ・ルセフィ・デベルザ>

■スルホニル尿素薬(SU薬)
膵臓に働きかけて、インスリンを分泌させる薬剤です。古くからある安価な薬ですが、強い血糖低下作用を発揮します。比較的長い時間にわたって強い効果が続くので、低血糖に注意が必要です。
<アマリール・グリミクロン>

■グリニド薬
 膵臓に働きかけて、インスリンを分泌させる薬剤で、スルホニル尿素薬と同系統の薬です。ただし、スルホニル尿素薬と比較すると作用時間が短く、インスリン分泌増強効果もマイルドであるため、低血糖のリスクが軽減されています。1日3回、食事の直前に服用するのが標準的な服用法です。
<ミチグリニド・レパグリニド>

■αグルコシダーゼ阻害薬
 糖質は消化管において分解されてから、体に吸収されます。αグルコシダーゼは糖質を分解する酵素であり、この酵素の働きを妨げるのが、αグルコシダーゼ阻害薬です。αグルコシダーゼ阻害薬を投与すると糖質の消化スピードが遅くなり、糖の吸収が遅れるので、食後の血糖上昇が抑制されます。
主な副作用は、腹部ガス貯留による腹部膨満感、下痢、便秘などの消化器症状です。
<ボグリボース・ミグリトール>

■インスリン抵抗性改善薬
 インスリン作用の一つは、脂肪おいて糖の取り込みと貯蔵をうながすことですが、2型糖尿病ではインスリン抵抗性により、糖を取り込む能力が低下しています。インスリン抵抗性改善薬は脂肪に働きかけてインスリン抵抗性を解除し、脂肪における糖の貯蔵量を増やすことで、血糖低下作用を発揮します。
主な副作用は、むくみです。
<ピオグリタゾン>

インスリン療法
 多くの糖尿病患者は、インスリン分泌量が不十分であるために、血糖値が上昇します。インスリンを分泌する能力がどの程度残っているかは、患者さんによって大きく異なります。インスリン分泌量が大きく落ち込んでいる場合や、インスリン抵抗性が非常に高い場合には、内服薬による血糖管理が困難となるため、インスリンを体外から補充する必要があります。そして、インスリン製剤は今のところ注射薬のみです。
インスリン分泌は、24時間にわたって血糖値を調節する「基礎分泌」と、食事による短時間の血糖上昇に対処する「追加分泌」に分かれます。
(図3)

 基礎分泌に相当するのが持効溶解型インスリン製剤であり、追加分泌に相当するのが超速効型・超々速効型インスリン製剤です。また、持効溶解型と超速効型が一定の割合で混ざっている混合製剤もあります。糖尿病の重症度、年齢、身体活動を考えて、各々の患者様に合ったインスリン製剤・注射回数(1日1~4回)を決定します。

超速効型 :ノボラピッド・ヒューマログ・アスパルト・リスプロ
超々速効型:フィアスプ
持効溶解型:ランタスXR・トレシーバ
混合製剤 :ライゾデグ

■GIP/GLP-1受容体作動薬(注射剤)
GIPとGLP-1は消化管ホルモンに分類されます。GIPとGLP-1は、ともに膵臓に働きかけてインスリン分泌を促す作用があります。GIP/GLP-1受容体作動薬は一つの化合物ですが、GIP受容体にもGLP-1受容体にも結合します。GIP/GLP-1受容体作動薬には食欲抑制と体重減少の効果があり、GLP-1受容体作動薬と比較して、より強い効果を発揮します。治験では、90%を超える糖尿病患者がHbA1c 7%未満を達成し、平均-5kg以上の体重減少が認められました。
週1回の注射薬です。主な副作用は、嘔気、便秘・下痢などの消化器症状です。
<マンジャロ>